どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

【テーマ】空になった部屋

学校も卒業ということで,初めてのひとり暮らしだった部屋から新しい部屋へと移ることになった.引っ越す距離も長いし,部屋のものもこの部屋に来たときと比べたらかなり増えたこともあって,引越の業者を頼んだ.この業者は明日引っ越すからといってお願いするものではなく,あらかじめ見積もりをしてもらわないといけない.引越しというものは引っ越すその日から2週間前にははじまっているのだ.

見積もりも終わり,業者を決定すると,業者はダンボールをくれる.物を入れるために.とりあえずしまえそうな本などを中心にしまってゆく.部屋から本が隠れてゆく.隠れた分はむきだしのダンボールに占領されてゆく.部屋にあるものの中でこちらではもう使わない棚や自転車の引き取り手を探す.おおかたは後輩が引き取ってくれることになった.本などしまえるものもあるが,まだ暮している身では必要なものもある.前日に冷蔵庫のコードを抜くのさえ,楽なことではない.引越し当日にならないとしまえないものもある.

引越当日.この日は親が手伝いに来てくれることになっていた.親は朝の8時には来るといっていた.本当に来た.引越屋も前日に予約を変更したものの,変更後の9時には来た.親もどんどん荷物をしまってゆく.私よりも数倍早い.引越屋はさらに上手だ.私がやろうとした事をとっていって梱包してゆく.荷造りで悩むことはないのだろう.部屋にある家具を解体するのかと思いきや,そのまま包んでいく.空のカラーボックスが組み立てられたそのままの形で積まれてゆく.

荷物が一段落し,棚や家具を外に出して約束していた後輩に渡すために学校へ行く.学校では後輩が待っていてくれた.渡すものをそそくさと部室に置くと,後輩と世間話を始める.学校にいた四年間は短かった.また卒業式があるからそのときに会える.もっと話していたかったが,荷物を一緒に運んでくれた親から呼び出される.

引越も大詰めだ.学校から自分の部屋に戻ると,大きな家具や部屋中にあったダンボールがそこにはなく,あったのはダンボールに入りきらなかったゴミだけだ.引越屋のとりあえずの仕事が終わったので代金を払う.あと部屋に残っているものはゴミだけだ.

ゴミもよく見てみるとおもしろいものだ.家具の下には全くない.掃除していないところはゴミだらけで手ですくえるほどだ.ゴミは私の生活を映し出していたことにふと気づく.そんなゴミも回収され,部屋にひいてあったカーペットをはがす.フローリングが姿を現した.箒ではいたりして床をきれいにする.これでこの部屋ともお別れだ.

最後に部屋をもう一度見た.ふっと昔の光景が目に浮かぶ.この四年間のはじめの日だ.何もない部屋に少しだけ自分の荷物を持ち込んだあの日のことだ.どんな想いを抱いてここに来たのだろう.その想いを続けられたのだろうか.四年間は長くはない.だけどフローリングを,フローリングを傷つけないようにとカーペットのようなもので覆ってしまったとしたら,フローリングは見えるだろうか.私はその想いを,カーペットが剥がされるまで思い出せなかった.

私のいた部屋にはすぐ四月から人が入ることになっている.部屋は今,空になった.新しくここに住む人はどんな人かは知らない.だけど,何かしらの想いを抱いてここに来るのは間違いない.同じように私自身も四月からは新しい部屋で新しい暮らしがある.そこで私はどんな事を想うのだろう.そしてその想いつづけることができるのだろうか.もう,初めての引越は終わったのだから,同じ失敗は繰り返さないようにしないと,とあの光景とともに心にとめておきたいと想う.