どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

ドラゴンクォーター

よくできたゲーム.
でも,これを「RPG」と,「ブレス」と呼べるか?


ブレス オブ ファイア5 ドラゴンクォーター
(2002年12月発売・CAPCOMPS2
評価:★★★★☆☆(B:ゲーム好きならおすすめ)


前作までドラクエの形式(主人公がなるべくしゃべらないようにする)を踏襲してきたシリーズに,前回取り上げた『幻想水滸伝』と,もうひとつ『ブレスオブファイア』がドラクエ以外では挙げられるのではないだろうか.『幻想水滸伝3』が同じストーリーを別の視点から眺めるという物語的な側面を強めたのに対し,対照的に『ブレスオブファイア5(以下,ドラクォ)』はゲーム的な側面を強めたといえる.


SOL(シナリオオーバーレイ)がもたらすゲームデザイン

SOLの思想はゲーム全体の思想であり,SOLなしには『ドラクォ』は語れない.これがPETSと違うのは,PETSがあくまでゲーム内の思想である(ただし,正直なところ,私はPETSのことはよくわかっていない)のに対して,SOLはゲームのプレイの形態を決めている.SOLが発動するのは,ゲームをやり直したときである.つまり,SOLはゲーム世界外にまで影響を及ぼしている.


リュウたちの人生が1回限りであるのに対して,プレイヤーは複数回同じリュウの人生を歩むことになる.他のゲームでも複数回やれば複数回歩むが,前回の経験を引きずっているのだ.スキルや金,特に共同体は顕著だろう.さらにSOLイベントである.ゲームデザインとして複数回こなす事を要求していると言える.リュウの人生そのものがやり直せない以上(リュウは何度やり直しても同じ行動をしている.リュウの人生は一つしかないのだ)SOLが発生する自然的な理由は全くない.


新しい事実に気づいたり,前の能力を引き継ぐのは,誰でもない,プレイヤーだ.ゲーム世界が軸になっているわけではない.プレイをするプレイヤーの事が考慮されている.イベントスキップもそのためにある.『幻想水滸伝3』も同じシーンを何度か見ることになるが,こちらにイベントスキップ機能がつくことはあってはならないことだと思う.つく理由がないのだ.


このゲームをしていると巷のリセットボタン論(※リセットボタンを押せば全てが許されるだろうと思って変な行動をするのではないかという考え方)が間違っている事を示している.このゲームでリセットボタンを押すことができないわけではないが,それはあまりしない.セーブをする機会がほとんどない.リセットボタンを押せば,現状復帰には相当時間がかかることが多い.SOLによって,魔法や技,パーティー経験値などが引き継がれる.そこで負けたことはゼロにはならないのだ.次やるときには理解しているものなのだ.


さて,『ブレス』とは何か?

本来なら,星の数をひとつ増やしてもいいのかもしれない.でも,それは何かが許せない.それは『ブレスオブファイア』とは何か?ということに他ならない.これを『ブレスオブファイア』としていいのだろうか,という問いである.3や4のような話はそうそう続かない,限界が来ると思っていただけに,やはり難しいところだったのだろう.


もちろん,リュウとニーナ(及び声優)が登場したり,魔法や通貨単位,そういう種のものは同じだ.もっと言えば,話の枠組みも(特に3と)同じであるように見える.私はボッシュをティーポ以外には見えなかった.ドラゴンをテーマにしているという点でも同じだ.


それでも,言いたい.これを『ブレスオブファイア』と呼んでよかったのかどうか.お気楽さというか,毒されていないとでも言うべきか,カプコンらしくないと言うべきか(と言ったら怒られそうですが)ファンタジックな明るい世界観であったことには間違いない.あと,「釣り」.どこへ行ってしまったのだろう.やったことはないが,同じカプコンの『バイオハザード』が浮かんでしまう.あの暗さや緊張の続く戦闘ばかりの展開がそうさせるのだろう.あと,スタッフで4作っている人がどれだけ5に残っているかというのも疑問だ.


次回作がどう出るか.それによっておそらく『ブレスオブファイア』のアイデンティティが決まるのだろう.どう出るにせよ,世界観をころころ変えられてしまった日には作品別ファンはつくが固定ファンがつきにくいように思えてならない.いっそのことこの路線でいくのなら,シリーズ名を『ドラゴンクォーター』にしてみてはいかがでしょうか.蛇足でした.


RPGと言えるのか?

これはRPGと大きくうたってはいるが,RPGとは何か,開発チームの人に答えてほしい.少なくともリュウにロールプレイするのは無理だ.彼が何を考えているのか想像しながら進めていくのは至難の技だ.たとえば,どうしてリュウはニーナを空に連れて行こうとしたのかという問いにはっきりとした答を見出すことはできない.恋愛感情だとしても,どうしてニーナのことが好きになったのか,が重要なポイントであり,そしてその答は描かれない.アジーンとの関係やニーナへの想いなんていうのは彼の「内省的な」性格でさっぱり見えない.他のキャラクターのようなSOLもない.

「アクションではない戦闘形式を持っている」ゲームというのが開発チームの定義の推測ではないだろうか.回数を重ねる(繰り返す)ということはロールプレイの特徴でもある.しかし,先のリュウが描かれていない事やイベントがスキップできるという事を考えると,ストーリー面ではなく,システム面の強化に他ならない.

システム的な強化はプレイヤーの自由が強くなる.イベントスキップはその極地だ.プレイヤーの判断だけが問われる.私のゲームの分類だと,「主人公道具型」に近いのではないだろうか.


総評

システムの概念的な話ばかりだったので,実際どうだったかといえば,おもしろかった.1回で止めるつもりだったが,思わす2周してしまった.1周目は辛い.難易度が高いゲームだと思った.攻略本を見ても攻略方法がわからない.とくにアブソリュートディフェンスは初心者いじめだと思った.100%でゲームオーバーになってしまうのもきわどい.使い方によってはラスボスに近いボスでも1ターンで倒せるので強いのだが,システム的な戦いが楽しいのにそれはそれでどうかと思う.また,回復方法が乏し
いのも辛い.セーブもほとんどできない.だけど,1度クリアした後のやり直し以降は,SOLがあるのでかなり楽といえる.

世界観は抽象的.リアリティは全くないと言ってよい.オリジナリティがあるかといわれても,そうでもない.荒廃しきった世界なのだ.それだけならリアリティを見出すことも不可能ではないが,『ドラクォ』はいかんせん人が少ない.暮らしが見えない.対話があまりないのだ.ただ,このあたりもシステム重視だからと割り切れれば,都合のよい考え方であることは付け加えておく.音楽も悪くはない.システムやストーリーによくなじんでいる.

単品としてのゲームとしてはよくできている.シリーズものをやっていない人でも何も困ることはない.慣れるまでが大変だが,慣れれば意外に単純に感じるはずだ.「主人公型」ゲームとは言えない確率が高いが,ゲームらしいゲームであることには間違いない.


<評価詳細>
ストーリー:★★☆☆☆☆ (D:やるなら止めはしない)
 システム:★★★★★☆ (A:ゲーム初心者でもおすすめ)
   音楽:★★★★☆☆ (B:ゲーム好きならおすすめ)
   私見:★★★★☆☆ (B:ゲーム好きならおすすめ)
(著者注・お詫び)
システム的にはよくできていますが,初心者に進められるかどうかは…です.