どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

【テーマ】一日分のタミフル

2003年,一人暮らしを初めて早4年.卒業論文の提出も終わり,いよいよ明後日は卒業論文の発表会が迫り,一人暮らしも終えようとしていた,そんな日のことだった.


発表会の打ち合わせを終えると,次会うときは本番.いつもだったら図書館に寄っていくのだが,この日はそういう気分にはなれなかった.なんか頭が痛い.卒論がんばり過ぎたかな,とありえない想像をしながら,さっさと家に戻った.その日は午後6時にはなんとか夕食を終え,眠りについた.そして,それが始まりだった.


次に起きたのは午前0時.体調は良くなるどころか,頭の痛さはひどくなる一方で,さらに,寝る前には感じなかった寒気を感じるようにもなっていた.また寝てしまいたいが,すでに6時間も寝てしまっている.痛みも手伝って,なかなか寝付けなかった.やっと寝られても,1時間くらいでまた起きてしまった.次の日,発表会の前日.起きようと思って起きたのは,朝10時ごろだった.それから最寄の病院にふりしぼって体を移動させた.


診察の結果は,インフルエンザだった.熱は39度近くにもなっていた.治療で注射をすることになり,奥の診察台に寝かされた.診察台とはいえ,毛布をかけてくれてベットみたいだった.注射が終わると,診察をしてくれた医師は,申し訳なさそうに,「本当なら3日必要なのだが,タミフル(早期インフルエンザによく効く薬)は2日分しかないんだよ」と説明してくれた.インフルエンザが大流行してしまって,薬が不足していたのだ.


それから注射をしてもらった.さらに,診察台から奥にある本物のベッドに移って,点滴をすることになった.そこで薬を飲んで,一眠りした.まるで入院患者みたいだった.この辺りのやりとりは,実のところ,あまり覚えていない.


次の目覚めは嬉しかった.苦しさや痛みが,完全ではないがほとんど消えていた.もう帰ろうとする僕に,看護師さんたちが,まだ寝ていた方がいいと言って,ベッドに戻された.なかなか寝られなかったが,あれからも看護師さんがときどき様子を見に来てくれていた.明日発表会があること,もうすぐ一人暮らしが終わること,その他いろんな事を話した.


午後5時近くにまた目が覚めた.熱は37度を切っていた.医師にもう一度診断を受け,大丈夫だということで診察室を出た.結局,今日はぷち入院をしてしまった.財布の中は5千円ほど.こんなにしてもらえるとは思っていなかった.どうしよう.だが,そんな心配は要らなかった.2000円位だった.あっけにとられてしまった.


その日は薬を飲んで,早く寝た.もちろん次の日には復活をして何食わぬ顔で卒論を発表した.当日の打ち上げにも参加.2次会に行っても大丈夫だった.おまけに3月の中旬に上海,というSARS前夜だったにもかかわらず,卒業旅行に行っても平気だった.


インフルエンザが治ったのは,薬のおかげだ.それ以上に薬を処方してくれた医師の方,看護をしてくれた看護師の方に治してもらった.治してもらっただけではなく,エネルギーの補充までしてもらった.あまり記憶はないが,なぜかそう感じている.体調が悪いときには,迷わず暖かい人たちのいる病院に行くのが一番.ただ残念なのは,卒業後に引越をしてしまい,困ったときに,あの病院には行けなくなってしまったことだ.でも,奇跡的な復活を遂げたその日の事を僕は忘れない.