ドラゴンクエスト5
面白さと空しさと
ドラゴンクエスト5〜天空の花嫁〜
(2004年/スクウェア・エニックス/PS2)
この作品は,知っている方も多いとは思うが,92年にスーパーファミコンで発表された同作品のリメイクである.すごろく場ができたり,名産品ができたり,仲間になるモンスターが追加されたり,特技やアイテムが若干変更になったりしている.その他にもある.しかし,一番大きな変更点は,仲間に話し掛けられるようになったという点だろう.
確かに,話し掛けることによって,このゲームの発する家族というメッセージ性は確実に強くなった.だが,そのメッセージ性によって失われたものも大きい.それは,プレイヤーと主人公の関係である.
■ドラクエ型の限界■
5に限らず,ドラクエでは「主人公=あなた(プレイヤー)」であり,プレイヤー(あなた)は常に主人公であった.この5では,主人公が結婚相手を選べる,というのがウリというか,特徴になっている.
一見プレイヤーに主導権があるようだが,実はマリア(結婚候補者にいない女性)と,というような選択肢は許されていない.当然ながら結婚をしなければならない.ここには,結婚の自由はないのだ.
もっと言ってしまえば,主人公は,結婚についてはプレイヤーに聞いてくれるが,子どもは勝手につくってしまう.これは大きな問題だ.子どもは結婚したら自動的にできるものではない.
ゲームの中の主人公とそのパートナーは,いつ子どもをつくろうと決めたかは,論理的に知っている(少なくとも心当たりはあるはずだ).だが,何らかの配慮があって,プレイヤーは知らない.だから,プレイヤーから見れば,気づいたらパートナーが妊娠していまっているのだ.これでは主人公=あなたとは言えない.
ストーリーの展開上,主人公とそのパートナーの子どもが必要なのもわかる.しかし,このことは主人公=プレイヤーだと思っているプレイヤーにとってみれば裏切り行為である.
ドラクエは,主人公が「あなた」であるように見せかけるために,細かい工夫をたくさんしている.戦闘画面のデザインも然り,主人公は話さないのも然り.にもかかわらず,仲間(特にビアンカ)と話せることによって,主人公への評価がなされてしまう.これまでの苦労が台無しだ.
ちなみに,「6」はこの批判に対して,主人公自身もわからない,という設定により主人公=プレイヤー(より正確には,プレイヤー⇒主人公⇒真の主人公)という関係を維持できたといってよいだろう.
しかし,「7」は打って変わって,主人公=プレイヤーという図式を放棄して,主人公像がプレイヤーの関与なしに成り立つようになっている気がしてならない.今回のリメイクはこの7の路線に従っている,ということができるだろう.(この批判は7にも当てはまる)
■ゲームの面白さ■
実は,私はこのゲームが発売されるのを楽しみにしていた.発売後やりまくっていた.プレイ後も,数あるドラクエシリーズの中でも一番面白いと思っている.このリメイクでも面白さは健在だった.面白いのは,ずばりモンスターが仲間になるところである.パーティーを自由に編成できるところである.
ところが,必ず欲しいモンスターが仲間になるとは限らないところが,また面白い.むしろ後半のパーティーが制限される(=「家族」が強調される)ようになってからは,面白さが半減してしまっているような気さえする.
3以降いろいろなシステムを導入しているが,モンスターが仲間になるというメガテン(女神転生シリーズ)ちっくなこのシステムが一番よくできている,と思う.ついでに.新登場の名産品システムは悪くはないが,単にコレクターズアイテムでしかない.
自由度と不確実度,これがゲームの面白さの要である.これは,ストーリーやテーマとの魅力とは別である.この両者が同じ方向を向いていれば,気にならないのだが,このゲームはそこがイマイチ違っている方向を見ているような気がする.そこが惜しくてしょうがない.
今回導入が見送られた移民システムだが,これは見送られてよかった.同種のシステムは私の知る限り,ブレス(ブレスオブファイア)シリーズや幻水(幻想水滸伝)シリーズにもあるが,ゲーム的な面を目指すなら前者,ストーリー的な面を目指すのなら後者の方が優れているといえよう.
ただ自由を求めているプレイヤーはネットゲームを,ただ物語を求めているプレイヤーは膨大な数がある他のパッケージゲームをそれぞれプレイする時代になってきている.現状どちらでもない国産最大のRPG「ドラクエ」は岐路に立っているようにみえる.今冬発売予定の新作「8」がどう応えるのかに注目したい.
■評価■
総合評価:★★★★★☆
ストーリー:★★★★☆☆
システム:★★★★☆☆
音楽:★★★★★☆
その他私見:★★★★★☆
ドラクエ史上最高の傑作である「天空の花嫁」.リメイク版だが,ゲーム的に面白い部分はそのまま.ただし,主人公との関係については前進がなかったり,逆におかしくなってしまったところもある.
●二川項の本音●
一番の率直な感想は,結婚できるのだろうか…という漠然とした悩みだったりする.プレイしていたころに,幸せな話をいくつか,ほぼ同時に聞けたこともあってのことなんだけど.こればっかりは,ゲーム中にもあったけど,たくさんプレイしても,考えても,悩んでもしょうがないことなんだけどさ.