どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

ドラゴンクエスト5

面白さと空しさと


ドラゴンクエスト5天空の花嫁
(2004年/スクウェア・エニックスPS2


この作品は,知っている方も多いとは思うが,92年にスーパーファミコンで発表された同作品のリメイクである.すごろく場ができたり,名産品ができたり,仲間になるモンスターが追加されたり,特技やアイテムが若干変更になったりしている.その他にもある.しかし,一番大きな変更点は,仲間に話し掛けられるようになったという点だろう.


確かに,話し掛けることによって,このゲームの発する家族というメッセージ性は確実に強くなった.だが,そのメッセージ性によって失われたものも大きい.それは,プレイヤーと主人公の関係である.


ドラクエ型の限界■

5に限らず,ドラクエでは「主人公=あなた(プレイヤー)」であり,プレイヤー(あなた)は常に主人公であった.この5では,主人公が結婚相手を選べる,というのがウリというか,特徴になっている.


一見プレイヤーに主導権があるようだが,実はマリア(結婚候補者にいない女性)と,というような選択肢は許されていない.当然ながら結婚をしなければならない.ここには,結婚の自由はないのだ.


もっと言ってしまえば,主人公は,結婚についてはプレイヤーに聞いてくれるが,子どもは勝手につくってしまう.これは大きな問題だ.子どもは結婚したら自動的にできるものではない.


ゲームの中の主人公とそのパートナーは,いつ子どもをつくろうと決めたかは,論理的に知っている(少なくとも心当たりはあるはずだ).だが,何らかの配慮があって,プレイヤーは知らない.だから,プレイヤーから見れば,気づいたらパートナーが妊娠していまっているのだ.これでは主人公=あなたとは言えない.


ストーリーの展開上,主人公とそのパートナーの子どもが必要なのもわかる.しかし,このことは主人公=プレイヤーだと思っているプレイヤーにとってみれば裏切り行為である.


ドラクエは,主人公が「あなた」であるように見せかけるために,細かい工夫をたくさんしている.戦闘画面のデザインも然り,主人公は話さないのも然り.にもかかわらず,仲間(特にビアンカ)と話せることによって,主人公への評価がなされてしまう.これまでの苦労が台無しだ.


ちなみに,「6」はこの批判に対して,主人公自身もわからない,という設定により主人公=プレイヤー(より正確には,プレイヤー⇒主人公⇒真の主人公)という関係を維持できたといってよいだろう.


しかし,「7」は打って変わって,主人公=プレイヤーという図式を放棄して,主人公像がプレイヤーの関与なしに成り立つようになっている気がしてならない.今回のリメイクはこの7の路線に従っている,ということができるだろう.(この批判は7にも当てはまる)


■ゲームの面白さ■

実は,私はこのゲームが発売されるのを楽しみにしていた.発売後やりまくっていた.プレイ後も,数あるドラクエシリーズの中でも一番面白いと思っている.このリメイクでも面白さは健在だった.面白いのは,ずばりモンスターが仲間になるところである.パーティーを自由に編成できるところである.


ところが,必ず欲しいモンスターが仲間になるとは限らないところが,また面白い.むしろ後半のパーティーが制限される(=「家族」が強調される)ようになってからは,面白さが半減してしまっているような気さえする.


3以降いろいろなシステムを導入しているが,モンスターが仲間になるというメガテン女神転生シリーズ)ちっくなこのシステムが一番よくできている,と思う.ついでに.新登場の名産品システムは悪くはないが,単にコレクターズアイテムでしかない.


自由度と不確実度,これがゲームの面白さの要である.これは,ストーリーやテーマとの魅力とは別である.この両者が同じ方向を向いていれば,気にならないのだが,このゲームはそこがイマイチ違っている方向を見ているような気がする.そこが惜しくてしょうがない.


今回導入が見送られた移民システムだが,これは見送られてよかった.同種のシステムは私の知る限り,ブレス(ブレスオブファイア)シリーズや幻水(幻想水滸伝)シリーズにもあるが,ゲーム的な面を目指すなら前者,ストーリー的な面を目指すのなら後者の方が優れているといえよう.


ただ自由を求めているプレイヤーはネットゲームを,ただ物語を求めているプレイヤーは膨大な数がある他のパッケージゲームをそれぞれプレイする時代になってきている.現状どちらでもない国産最大のRPGドラクエ」は岐路に立っているようにみえる.今冬発売予定の新作「8」がどう応えるのかに注目したい.


■評価■
 総合評価:★★★★★☆
ストーリー:★★★★☆☆
 システム:★★★★☆☆
   音楽:★★★★★☆
その他私見:★★★★★☆


ドラクエ史上最高の傑作である「天空の花嫁」.リメイク版だが,ゲーム的に面白い部分はそのまま.ただし,主人公との関係については前進がなかったり,逆におかしくなってしまったところもある.


●二川項の本音●

一番の率直な感想は,結婚できるのだろうか…という漠然とした悩みだったりする.プレイしていたころに,幸せな話をいくつか,ほぼ同時に聞けたこともあってのことなんだけど.こればっかりは,ゲーム中にもあったけど,たくさんプレイしても,考えても,悩んでもしょうがないことなんだけどさ.