どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

「その」瞬間を求めて

私事で恐縮だが,正直なところ,曲がりなりにも物語の創り手なのにもかかわらず,小説はあまり読まない,映画も見ない,舞台も見に行かない.ゲームでさえあまり数をこなしていない.これではまずいと思って,名作の筋だけでも知っておこう,と発売されている「あらすじ」本を読んでみた.


その本の編集が悪いわけではないのだろうが,いまいち気を引かない作品が多い.原文が載せてあるものでさえ,どういうわけかさっぱりだった.しかも,選ばれている原文は重要な部分なのにもかかわらずである.その作品のキャッチコピーも同じで,そんなに惹かれないのである.


それはなぜだろう.反対に,自分が印象に残っていたり,最高だと思うような作品はどんな作品だろう?どこに惹かれたのだろう?その答はそんなに難しくない.その作品がただ好きなだけではなく,自分がその作品と何かで結びついているから好きなのだ.自分があの時思っていた光景と重なった,主人公と似た状況におかれて共感した・勇気づけられた…という具合に.


今のメディア環境は大都会に似ている.大都会にたくさんの人がいるように,たくさんの種類があり,作品がある.その全ての人,作品と知り合いになるのはとてもではないが無理だ.とはいえ,知っている人,作品がないわけではない.中には有名人,有名な作品がいる/あるかもしれない.だが,決して有名だから大切なのではないはずだ.


今は親しい人でも,昔からそうだったとは限らない.初めて会ったときには通り過ぎていたかもしれない.学校で国語の勉強をしていた時には何も感じていなかったのに,卒業してふとした時に手にとって読んで見たら,大切な作品になっていた.そんな経験はないだろうか.話を聞いたことはないだろうか.


違いはその「ふとした時」なのだろう.自分が求めている時に偶然その作品に出会う.その作品に出会うことで自分の中での問いの答えがわかる.機が熟すのを待たなければならないし,逃してもいけない.「あらすじ」本は,たまたまその機ではなかったか,不十分だったのだろう.答えは作品全体かもしれないし,その中のワンフレーズかもしれない.


そして出会えたその作品に自分を見出せること.見出せれば一生付き合える思い出の作品になるだろう.出会えれば,それはもう偶然ではなく,運命であり必然である.幸いにもそういう作品が僕にはある.


これからの人生でもたくさんの出来事があるあるだろう.作品も数えないくらい登場するだろう.偶然流れてきたラジオからかもしれないし,あのとき古本屋で見かけたその瞬間かもしれない.出会うきっかけは不幸なことかもしれないから,数が多ければいいというわけではないけれど,出会うその瞬間は逃したくない.そう思いながら,明日もゆっくりと接していくだろう.