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電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

英雄伝説6 空の軌跡

ジェネリックRPG
英雄伝説6 空の軌跡


ジェネリック医薬品をご存知だろうか.特許消滅後の技術を用いて,安くて効果の高い医薬品を作るというあれである.この作品はジェネリックRPGというにふさわしい.特に新鮮さ・斬新さは感じられないが,その分安心してプレイできる作品となった.ここでは主に英雄伝説シリーズと比較しながらコメントしてみたい.


■新時代の英雄伝説

ハードがPCなので,知名度ではそんなに高くないものの,歴史は古いのが英雄伝説シリーズである.この作品は第6作だが,それまでの3作目から5作目までのガガーブトリロジーと呼ばれたシリーズが一区切りし,新規シリーズの第1作になる.また,ストーリー重視のRPGとしてはかなり急先鋒であることが知られており,パッケージには「(英雄伝説は)ストーリー型RPGの原点」とまで謳っている.今作もそれを裏切らない出来に仕上がっている.


■キャラクター

攻略本の人物紹介に載っているようなレベルでは,特に何かを論じるようなキャラクター設定は少ない.プレイヤー受けするようなキャラクターばかりで構成されてはいない.女性キャラクターに匂いが若干感られるものの,いかにもということはないだろう.特になんということないのだが,オリビエのようなキャラクターは,同社のゲームにはなかなか出てこなかったタイプだ.彼は存在からして面白い.どれもみな魅力的なキャラクターなのだが,デュナン公爵の設定が単純すぎる点と(これは『幻想水滸伝3*1
で指摘したのと全く同じ),一般特務兵の横柄な態度(これは,意味づけが抽象的すぎるからなのかもしれない)がとても悔やまれる.


■ストーリー・世界設定

ストーリーは一本で遊びの部分もあるが,本題がわからなくなるほどではない.前作『海の檻歌』の冗長で散漫とした感じがなくなっているのはとても良い.プレイ時間も約70時間と,適当な長さではないだろうか.むしろ語りきれない部分が多すぎるはずというのが率直な感想だ.


パーティーメンバーがころころ変わって,最後に集結するというのがカカーブ以来の英雄伝説の流れであり,この作品も例外ではない.ストーリー的なリアリティはそうなんだろうと思うものの,システム的に少し寂しい気がしなくもない.


世界設定も若干判断がつきづらい部分があるものの,基本的には精緻で矛盾がなく,よくできている.ただし,あたかもこの世界の東の方に中国があるかのような印象を受けた.ややストレート,露骨過ぎるのが原因ではないだろうか.(『幻想三国志』への布石?)基本的に無意味な他の作品からの引用も少なく,設定の質の高さでは他のファンタジー作品と一線を画すシリーズだっただけにとても残念だ.あとピューリツァー賞も.


また,ハードがパソコンなので,対象層は他のハードより比較的高い.そのせいもあって,選ばれている言葉もやや難しい.一部に不必要と思えるような血しぶきが出る場面があるのも気にならなくはない.総じてガガーブシリーズよりも大人の作品であると感じられる.とはいえ,肝心な部分はもやもやしていて,私はサブタイトル『空の軌跡』の意味を理解できなかった.本題については,明らかに関連があると宣言している次回作を待ちたい.


■システム

バトルの基本的な発想は,意外にも8年前に発売されたの第4作の『朱紅い雫*2に求めることができよう.もちろん,8年後の同作は,いろいろな要素が付け加えられていてスリリングで面白くなった.キャラクターとバトルに関係を持たせているし,第3作の『白き魔女』のようにストーリーだけが走ってしまうよう事態にはなっていない.


また,『朱紅い雫』にあったギルドのシステムも踏襲している.依頼の解決方法とキャラクターの個性を結び付けていた『朱紅い雫』に比べると,『空の軌跡』は,少し単純すぎる気がしなくもない.ついでに『朱紅い雫』とテーマが似ていなくもない.バルドゥス神がカシウスに変わっただけというか.まあ,テーマについてはシリーズとの兼ね合いもあるので,単純に断言はできないだろう.


そのほかに注目すべき点としては,シリーズ初の3Dということだろう.私の環境はグラフィックボードが貧弱で動きがぎこちなくなることがあったが,推奨の物を使えばもっと快適になるだろう.絵としては格別に美しいわけではないが,主人公が背景に溶け込まないので,画面はとても見やすい.キャラクターに不必要なリアリティもない.必要十分ではないだろうか.ただし,他のゲームと同じで,カメラが回るところと回らないところがある.この点は不満だ.何のための3Dなのか,主人公が見えている視点をあえて隠すことの意味があることなのだろうか.


音楽は好感が持てて,カッコいい曲が多い.特に「銀の意思」がいい.同社の他のソフトと似ているフレーズもあるような気がする.このことは別に悪いわけでも何でもない.


悪いのは料理のシステムだろう.このシステムは過去にこのコーナーで取り上げた『テイルズ・オブ・エターニア*3』と全く同じものだと考えてよい.テイルズの方が食べ物に地域性が表現されていた分だけシステム的には上だ.正直今更…という気がする.最後の購入できるポイントで材料が購入できないし,単なるコレクションアイテムだったのだろうか.2004年の作品としてはもう一工夫か再定義をしてほしかった.


■システムとしてのストーリー

ストーリー単体で見れば,上々の出来ではないだろうか.ただし,それがRPGというメディアの上に乗るものとしては不適当な部分もある.大雑把に言えば,プレイヤーにどんな情報を与え,どんな情報を与えないかといった部分だ.


主人公達にきちんとした個性を持たせている以上,主人公=プレイヤーという図式にはならないだろうが,このゲームにかかわる上で,プレイヤーとはどのような存在なのだろうか.例えばヨシュアのようにほぼ中心の主人公が知っている秘密をなかなか教えてくれないし,その一方で主人公たちが誰一人として知らないことを知ってしまう.「キャラクターを操作する」ことによって進んでいくゲームなのだから,このことの意味をしっかり考えいただきたい.そうでなければゲームである必然性がなくなってしまう.


そんなに尖がってはいないものの,とても手堅い.新鮮さや斬新さはゲームの必要条件になったとしても十分条件になはらない.いろいろ書いたが,完成度は高いので,ある点(ぜひプレイをして確かめてほしい)を除けば,期待が裏切られることはないだろう.マニアックなゲームや癖のあるゲームが多いPCゲーム市場ではこういう正統派のRPG作品は少ない.基本もしっかりしていて,難易度もそこまで高くないこともあり,万人にお勧めできるゲームだ.ただ,クリア後に次回作への期待が募るのは間違いないだろう.


■作品data 『英雄伝説6 空の軌跡』(DVD版)
  発売日:2004年06月24日
  ハード:Windows(PC)
  発売元:日本ファルコム株式会社
  定価:9975円(税込) ※初回限定版
  クリア日:2004年10月10日
  クリア時間:約70時間

*1:http://d.hatena.ne.jp/futagawakou/20030525

*2:英雄伝説シリーズに限らず,日本ファルコムの作品は『プロジェクトX』並に再リリース(リメイク)が多い.第4作も1996年にDOS版でリリースされているが,2000年にWimdows版で再リリースされている.1998年にはPS版でもリリースされている.DOS版・PS版(旧版)とWindows版(新版)ではシステムもストーリーの核心部でさえも違っている.新版のシステムは,他のガガーブシリーズと同じシステムが採用されている.ちなみに,この旧版は派手さはないものの,システムとストーリーのバランス,そして世界設定が美しい.私が高く評価しているRPGのうちのひとつだ.

*3:http://d.hatena.ne.jp/futagawakou/20030811