どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

見過ごしてるものに価値があるかも

僕はどうも長いこと集中できない気がしている。他のことが気になったり眠たくなったりすることも多い。広く視ようとしていても集中しているとつい狭くなって,見逃すことが多い。だから集中力が欲しいと思っていたところで手にとったのがこの本。

 

集中力では機械には勝てない

読んでみてちょっと意外だった。「「集中」とはすなわち、人間に機械のようになれという意味(p6)」という指摘である。人工知能に仕事を奪われるという説もある中で(実際にそうなるかどうかはさておき),これからは集中ではないスキル─すなわち分散思考─が必要になってくるのだろう。

 

ちょっと勘違いしないでほしいのは,本のタイトルに「集中力はいらない」とあるけれど,とは言うものの,ちょっとこれは言い過ぎな感じがあって,集中力の利点を認めた上で,集中力の副作用とその代替案としての分散思考を勧めている本なのだ。

 

興味深く,確かになんとなく実感とも合う指摘も多い。よく物語の中に出てくる仙人とか,飄々としているのになんか簡単に物事を解決していくようなキャラクターがいるけれど,彼らは単純に天才肌なのではなく,余裕があるからいろいろ検討できて一手を思いつける分散思考の持ち主なのだろう。

 

時給が集中を要求する

いろいろなところで日々生産性向上とか「集中」を説いているけれど,それで新しいものが出てくるかというのは謎である。新しい成功には失敗が必要なのだから集中だけではうまくいかないような気がしている。とは言うものの,担当している仕事にあわせて、どちらが求められているのか考えながら仕事をしていくことになるだろう。

 

集中することで時間を換金する(決められた時間集中していれば良い)のが今までの働き方だったけれど,これからはそうでない働き方も出てくるのだろう。いわゆる「高度プロフェッショナル制度」はその延長線上なのだろう(改善すべき点はあるかもしれないけれど)。四六時中仕事に支配されるのは勘弁。とはいえ,仕事と仕事以外の境界線が揺らいでくるようになるだろうし,無理して分ける必要もなくなるのかもしれない。

 

視野が狭くなっている社会

さらになるほど,と思うのが,個人のワークスタイルだけにとどまらず,社会全体が集中思考に陥っているのではないかと指摘しているところ。最後には戦争も集中思考の結果,とまで言ってしまうほど。でも,個人的には納得なのである。ちょっと何点か引用させてほしい。

集中思考をしている人は、自分の好きなものを決めつけ、そればかりを探しているから、どんどん見える範囲が狭くなっていく(pp127-128)

自己主張というのは、自分の意見を述べることだ。自分の願望を述べることではない。何が正しいと考えるのか、というのが意見である(p202)

すべてが、どっちつかずであり、良いところも悪いところもある。一面だけを見ず、すぐに意見を固めない、という姿勢が大切である(p213)

 

著者の森さんも指摘している通り,集中は社会の問題にもなっているとつくづく感じる。正義や原理,あるべき論は大切かもしれないけれど,それがちょっと強くなりすぎてしまっていて,その歪が大きくなって別の問題を引き起こしていることが多いような気がする。

 

はじめに僕のことを書いた。集中が得意ではないのは,結局は集中の窮屈さが得意ではないと感じているからだろうと感じている。集中のしすぎででやつれてしまう前に,集中していている人にこそ,次の時代への転換するために,読む価値のある一冊だと思う。

 

最後に。今回,久しぶりに読書した感想を書こうと思った。その第1弾がこの本なんだけど,「読書はインプットですが、思考はアウトプット(p82)」とか「加工しないでアウトプットする人は、ただ情報に反応しているだけ(p83)」とか言われてしまうと我が身はどうなのだろうかと胸に手を当てつつ,それでも書いてみたのだけど…,どうだろう?

 

集中力はいらない (SB新書)

集中力はいらない (SB新書)