どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

【せろん】同じ穴の…

イラクで人質事件が起こってしまった.しかし,自衛隊の撤退という犯人側の要求を呑むことなく,全員無事に解放されたようで,結果としては何よりだろう.


この事件では,犯人側の要求に従って,自衛隊を撤退させるべきかどうか,が議論になった.この議論を見ていると,大きく分けて,「テロに屈するわけには行かないので撤退させない」という見方と,「そもそも大義がないので撤退すべき」という見方があった.ただ,私は後者の見方には違和感があった.


イラク戦争に大義があったかどうかはわからない.ここでは,撤退すべきという彼らの意見を尊重して,なかったことにしよう.さて,どうしてアメリカ,ひいてはこのイラク戦争に大義がなかったのだろう.大量破壊兵器があるという疑惑が持ち上がり,国連の査察(方針)に満足がいかなかったのだろう.ここで(アメリカも加盟している)国連対アメリカという構図が出来上がっている.


大義がないと主張している人たちは,武力による強制的な解決ではなく,話し合いによる解決を図るべきだと訴えた.だが,アメリカは幾つかの同盟国で戦争という手段をとってしまった.だから現在の状況になってしまったのだ.


そして今回の事件は,人質を取った犯人は自衛隊の撤退を求めた.そもそもイラク戦争を引き起こしたのが一番いけない.だからアメリカと(その同盟国は)撤退すべきだという.これは,犯人の要求に応じるかどうかとは別の次元の問題だ.同じ次元に立つのなら,ご家族が言っていたように,人名を尊重するために撤退すべきと主張すべきなのだ.そもそも論では,少なくとも暗黙裡に犯人の方法を認めていることになる.違和感があるのはここだ.


アメリカは,なかなか進まないイラク問題を,武力で片づけようとした.アメリカは正しい事をやっていると言っている.フセインはけしからんやつだとか,民主主義も広げないといけないとか,もっともらしい理由をつけて行動を正当化している.


自衛隊撤退といっている人たちでも,フセインはすばらしいとか,民主主義は良くない,と言っているわけではないだろう.アメリカの問題解決の方法がおかしいということだろう.だからそれに同調する日本国もおかしい,その国が派遣している自衛隊(がイラクにいること)もおかしい,という理屈だろう.この理屈は,全員が納得するかどうかは別にして,筋が通っている.


なら聞きたい.今回の犯人の取った,人質を取って問題解決をするという手段は正しかったのかと.全ての武力行為に対して反対をするのなら,今度の事件も犯人達にも同じだけの怒りが向けられるべきだったのではないだろうか?人質事件を利用して自衛隊,軍隊の撤退,ひいては平和を求めるのは,イラク査察を利用して何かを企んでいたアメリカと同じではないか.正しい事をするためになら何をやっても良いのだろうか.


(犯人に対してではなく日本国に対しての)今回の事件に対するデモのプラカードの中に小泉首相が代わりに人質になってください,というようなものがあった.あの3人が人質になったのは良くないとしても,小泉首相なら良かったのだろうか.人の命にも重い軽いがあるのも,どうやらアメリカだけではないらしい.


今回の事件で自衛隊撤退だけを求めている人たちは,口では反戦,平和と訴えているが,本当はアメリカのように裏があるのだろう.それはきっと「反米」(=反右翼的勢力)だろう.自分たちのやっていることは正しいが,相手のやっていることは許せない.許せないのは手法ではなく,実は相手そのもの,アメリカ,ブッシュ大統領なのだ.


いろんな人たちが世界のいろいろな問題のある場所からリポートをする.たいていはアメリカが咬んでいて,進展のないところがとても多いような気がしてならない.アメリカが直接咬んでいない場所からのリポートは少ない.日本人と密接に絡んでいる北朝鮮も残念ながら例外ではないだろう.世界は良くも悪くもアメリカ中心に回っている.


20世紀後半は冷戦の時代だった.もう冷戦は終わった.だが,戦争はなくならない.21世紀前半はアメリカ帝国と,アメリカに抵抗する平和という名の義勇軍の争いの時代になるのだろう.アメリカ色の世界,もしくは義勇軍の理想の世界,というカタチでの平和はやってくるかもしれないが,戦争のない平和は当分先になってしまいそうだ.みんながわかりあえる時こそが本当の平和なのではないだろうか.