ゲド戦記
構成がもっと練られていればなあ
評価:★★★★☆☆(B:映画好きならおすすめ)
この映画を見て,思ったことは,「納得いかない」ということだ.「絵」も「音楽」も「声」も決して悪いわけではない.むしろ上質なのだろう.物語の素材*1が悪いわけでもないし,「引き」が悪いわけでもない.
むしろ,「引き」はものすごく良いのだ.「ゲド戦記」シリーズはもともとファンタジーでありながら現代的な雰囲気が漂っている.だけど,より「今」っぽい感じがしている.アレンの心情もはじめは分からなかったけど,話を進めていくと,共感できるようになった.
一度映画を見ただけでは気づかなかったのだけど,次の日の中吊り広告を見て気づいた.その中吊りには,高校生が自宅に放火したというニュースについて書かれていた.そこで初めてアレンの視座が分かったような気がする.はじめは分からなかったけれど,というのは自分を背けていたからなのかもしれない.
ではなぜ,納得がいかなかったのだろうか.たぶん,場面が細切れだからなのだろう.アレンの視座を描くことには成功しているのだけれど,そこから彼が克服する過程が十分ではない.少なくとも,「テルーの唄」だけでは,僕には十分ではなかった.場面が足りないから,納得がいかないのだ.
あと,「ゲド戦記」ということで大枠でくくりすぎたのかもしれない.あれだけの話を2時間で納めるのは大変なことだ.例えば,この作品の前提の説明がほとんどないがために,原作を知らない人にとっては,さっぱり理解できない部分も多いのではないだろうか*2.
他にも魔法の薬をもらいに行くおばさんのシーンは確かにユーモラスなシーンなのだけど,これは本編とはまた別の問題への広がりを併せ持っている.今回だけで終わってしまうのはもったいない.もちろん,何でもかんでも続編があればいいというものではない.この「ゲド戦記」の続編は,悪い意味ではなく,作りにくいだろう.
もう少し突っ込んだ言い方をすれば,宮崎吾朗さんがわかりすぎていたのかもしれない.もちろん,作品のテーマや内容については,監督が理解していることは悪いことでない.当たり前のことと言われても不思議ではない.
原作上もそうなんだけど,ハイタカ(ゲド)は全て分かりすぎている.ハイタカの「説得」という形で進んでいく.それはよしとしても,クモやウサギがいかにも「悪」なのだ.はっきり言って,二項対立に近いものすら感じる.そう受け取られないように努力した形跡もなきにしもあらずなのだが…
そして妥協も何もなく「悪」は滅びていくのだ.アレンも迷ってはいるものの,途中で人が変わったように答えを見つけて突っ走っていく.過程を端折り過ぎて,場面が足りないからこういう事態になってしまうのだろう.
物語は全て終焉に向かっていくものだとしても,構造が単純すぎるのだ.説明が足りないのだ.結論が気にくわないのではない.構成がもう少し考えられていれば…と悔やまれる作品である.