どっとこうMOTTO

電子書籍『After』(全2巻),BookLive!(http://booklive.jp/product/index/title_id/116980/vol_no/001),紀伊國屋書店(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-0012917)などで好評発売中。

テレビニュースの社会学

マスコミ研究では,従来,
ニュースで伝えられた「言語」のみに注目していたのだそうだ.
そうではなく,言語以外にも注目するべきだ,ということで
テレビニュースを題材に諸々を明らかにしていく.


この手ではよく取り上げられるいわゆる普通のニュースだけでなく,
スポーツや天気予報まで網羅しているからすごい.


明らかにする方法論として採用したのがディスコース(言説)分析.
ディスコースとは,

ある出来事や事柄(誰が関係し,何が起き,いつ・どこで起きたか)について,その評価や解釈や正当化といった社会的行為を通じて「社会的リアリティ」を継続的に構築する,社会的に状況づけられた知(=一つの系に編成された言表の総体).意味が社会的に産出されるプロセスを照射する概念

ということ*1


今日的な広い興味のあるところとしては,
第3章の犯罪ニュースの章をあげたい.
この章を読めば,最近頻発している
いじめや殺人事件のニュースを見る目が変わるの間違いなし.


同じくらいに他の章も見方を考えさせてくれる*2
メディアリテラシーのための一冊としてもお勧め.


どっとこう総見としては*3,特に5章のスポーツコーナーに注目したい.
生のスポーツではなく,いやむしろスポーツニュースにこそ
物語モデルや同一化の概念が持ち込まれていた.
さらに,テーマでもある主人公との同一化のしやすさに
ついても言及があった*4

視聴者とよく似た位置に,視聴者の想像の中で入れ替えることが可能な位置に立っている…(中略)…監督の身体が,試合をしている選手の身体と出会い,情動を触発されていく…(中略)…監督と…(中略)…仲間の身体に同一化して,触発されて,その「喜び」は,私たちのものとなることができる


僕はスポーツニュースも生のスポーツもあまり見ないのだけど,
それは僕が入れ替わることが可能な位置に立てないことにつながる.
逆に言えば,入れ替わることが可能な位置に立てれば同一化できるかもしれない.
どうすれば入れ替わることが可能な位置に立てるのだろうか?


このどっとこぶろぐの中にも割とわかりやすいヒントがあるのだけど,
答が出ないので引用はやめておく.


ただ,同時に意識しないといけないのが,
その世界がどのような世界なのかということだ*5
入れ替わることによって,その世界の世界観にに引きずられていくからだ.


これもどんな世界がいいのかについてはまだわからない.
そうだとしても,(5章に限らず)本書で紹介されている方法論は,
どんな世界が構築されているのかを知るという意味では,
少なくとも,知っておいて損はないものだろう.


最近ご無沙汰などっとこう総見を再開したいというわくわくさを感じてしまった.
そんな一冊でした.


テレビニュースの社会学―マルチモダリティ分析の実践

テレビニュースの社会学―マルチモダリティ分析の実践

*1:p34より引用.

*2:僕はは大谷なんとかというジャーナリストのレポートにはどこか違和感を覚えていたのだが,その理由が分かったような気がしてよかった.彼が構築した社会的リアリティを根本的に信頼できないからだ.

*3:この本の問題意識とどっとこう総見の問題意識は,テレビニュースか,テレビゲームや関連ジャンルのアニメーションといった形式の違いはあるが,それ以外は共通する部分も多い.卒論こっちの方向で書けば良かったかなあ.

*4:pp120-121から引用.

*5:この点は,本書では言及されていないし,その世界がよいかどうかについての価値観についてはむしろ排除しようとしている.本書は,メディアがどう世界を構築しているのか(社会的リアリティ)のメカニズムについての研究であり,構築された価値観の是非を問う研究ではない.